朝カレーの巧みな戦略

引用

「めざめるカラダ朝カレー」が、レトルトカレーの棚で定番化しつつあるという。朝からカレーなんか食べるか? と常識的発想にとらわれていては決して登場しなかった商品だろう。
 しかし緻密(ちみつ)な戦略を背景に持つこの商品は、売れるべくして売れたのではないだろうか。
●マクロ環境=朝型へのシフト
 朝、カフェに行ってみると、ここ数年で確実な変化が起こっていることに気づく。以前とは何が変わったのか。勉強したり仕事している人が明らかに増えているのだ。のんびりモーニングセットでも食べて、コーヒーを飲みながら朝の一服をふかす。そんな悠長な過ごし方をしていたのでは、厳しい環境の中、生き残ることさえ難しいのかもしれない。
 朝早起きするためには、当然夜更かしなどしていられない。夜の居酒屋から客足が遠のくのもむべなるかな。そもそも、最近の若い人たちはお酒をそんなに飲まないのだ。だから夜はそこそこ早めに寝て、朝起きて仕事したり勉強するといったスタイルが広まった可能性はある。
 そもそも夜遅くまで働くことさえ、なかなかまかり通らぬご時世である。企業サイドとしては、できれば残業代を払いたくない。かといってサービス残業を強いたのでは、いろいろと具合が悪い。だから夜はさっさと帰れ(でも、家かどこかで仕事はちゃんとしろよ)的ムードもあるはずだ。朝型へのシフトが起こるはずである。
●朝カレーの巧みなセグメンテーション
 例えば『WONDA』なる缶コーヒーがある。国分君と高田のおっさんがコマーシャルで、これでもかとばかりに「朝」イメージを強調している。キャッチフレーズが「モーニングショット」、朝専用の缶コーヒーだ。こうした商品が出てくるのも朝型シフトをいち早く読んでいたからだろう。
 では朝カレーは、どんなセグメントを狙ったのだろうか。朝食については栄養、バランス、手軽、おいしい、健康といったセグメントがある。が、そこを付いたのではいまひとつ斬新さに欠ける。
 ここで思い出していただきたいのが、この商品のネーミング「めざめるカラダ朝カレー」である。実に巧妙なイメージングではないか。カレー=辛い=頭がしゃきっとする。すなわちお目覚めスッキリのカレーなのだ。
●子を持つ母親にターゲティング
 そしてターゲティングの妙。狙ったのは、子どもを持つ母親である。このターゲティングのうまさに、この商品の成功は大きく依存している。今北純一氏が『マイ・ビジネス・ノート』で提唱された「絶対需要」の掘り起こしに成功したのだ。
 すなわち母親は朝忙しいのである。とはいえ、子どもの食事は気になるのである。だから、手抜きできて、しかも子どものためになる食事があれば「これこそ、私の求めていたもの」となるはずだ。朝カレーこそは、まさに世の母親たちが飛びつかざるを得ない商品となっているのだ。
●母親のための3つのメリット
 まず温め不要である。あつあつごはんにかけるだけでオッケーである。めっちゃ手間が省けるではないか。にもかかわらず、子どもは基本的にカレーが大好きである。「うわ〜、朝からカレーやん。めっちゃうれしいで、母ちゃんおおきに(というのはナニワバージョンですな)」となるだろう。
 しかも、である。カレーは脳の血流を良くし集中力を高めるのだ。つまり母親からすれば、思いっきり手間を省きながら、子どもが喜び、かつ子どものためにもなる朝ごはんが、朝カレーなのである。もちろんエンドユーザーとなる子どもたちだって、朝カレーは大歓迎だろう。この組み立て、めちゃくちゃうまいと思う。
●ポジショニングにもオリジナリティ
 その上、ハウスは朝カレーに独自のポジショニングを与えた。これは時間節約を考えたからか(=母親メリット)、あるいは実際のユーザーとなる子どもにとっての食べやすさを重視したからかは、今のところ分からない。ともかく従来のレトルトカレーと比べれば、この朝カレーのポジションは明確に違う。
 どちらに重点を置いて開発されたのかはおくとする。ただ、いずれにしても「朝ゴハン専用として考え抜いた開発された」イメージは、十分につく。すなわち、お母さんたちにとって、このカレーを選択すべき理由付けとなる。
●プロモーションも抜かりなく
 とまあ緻密に組み立てられたであろう戦略があるのだから、プロモーションだって手抜きなしである。「たくましさ」をアピールするために、楽天イーグルス田中将大投手をイメージキャラクターに起用し、「母親が傾聴する午前中に集中的に(テレビCMを)投入した」(日経MJ新聞2009年5月20日、3面)
 まさか、今年のマー君の大活躍を読んでいたはずもないだろうが、開幕から不動のエースとして連勝街道を突っ走る彼の好調ぶりは、格好のバックアップとなったのではないか。
 丹念にマクロ分析をした上で流れを読み、セオリーに従ってSTP(効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法)を組み立てる。しかも狙いは、あくまでも絶対需要である。そこで見えてきたのが、母親への強力なメリット。ここに気がついたとき、企画チームは小躍りして喜んだんじゃないだろうか。
 しかも、そうした努力を後押しするかのようなマー君の奇跡的な活躍。売れるべくして売れたカレー、それが「めざめるカラダ朝カレー」なのだ。

 

朝カレーなんてあるんですね。ちょっとびっくりです。

売れるべくして売れたとは全く思いませんが、目の付け所はすごいと思います。

朝からカレー…確かに子供は喜ぶのかもしれませんが、私はあまり食べたくないです(笑)